野獣は時に優しく牙を剥く

「颯に浩!
 谷さんがもみくちゃでしょ?
 ダメよ、ワガママ言っちゃ!」

 目を三角にして怒っても谷本人が笑っている。

 二人にもみくちゃにされ髪がボサボサになっているのに、その方が色っぽいなんてずるいと思う。

 澪の気持ちなど知らない谷は満面の笑みで双子へ声をかける。

「いいよ。
 ほら。これなら二人いっぺんだ。」

 両腕で力こぶを作る格好をするとすぐに察知した二人は片腕ずつに飛びついた。

「よし行くぞ!」の掛け声と共にグルグル回してもらって「キャー!」と叫びつつも楽しそうだ。

 ひとしきり回してもらうと三人共がその場に崩れるように転がって大笑いしている。

「ハハッ。ちょっと俺、ダウン。
 休憩させて。」

「俺もー。目がグルグル〜。」

「俺もー。」

 笑いながらハアハア言っていた二人の様子が急におかしくなり始めた。
 ゼイゼイ言っていると思ったらヒューヒュー言い始めたのだ。

「颯!浩!!」

 居間の脇に置いてある喘息用の吸引を引っ捕まえて二人に渡す。

 緊急事態に気付いた谷も側にいた颯太の口に吸引器を当ててくれた。

 澪は浩太の口に吸引器を添えた。
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