野獣は時に優しく牙を剥く
8.一人じゃないから
発作後の為、さすがに控えめだが、にわかに再び始まりそうな泊まっていってコール。
その熱気が立ち登らないうちに澪が割って入った。
それはひどく冷たくて突き放した物言いだった。
「本当に必要ありませんから。
今までも発作が出た時は一人でどうにかしてきたので。」
シンと嫌な静けさが流れた。
堪らず「だから帰ってください」と重ねて言った。
見兼ねた祖父が静かに告げる。
「澪。龍之介くんに謝りなさい。」
今みたいに静かに低い声で言う時は本当に怒っている時だ。
本当に怒っているのが分かっているのに澪は黙って首を横に振る。
「澪。」
さっきより厳しい声になった祖父を谷が静止した。
「おじいちゃん、大丈夫です。
俺、帰りますから。」
「龍之介くん……。」
澪は胸がジクジクと痛んだ。
それは祖父の落胆した声のせいだ。
谷が帰るせいじゃない。
断じて、断じて違う。