野獣は時に優しく牙を剥く
車に乗せられて無言のまま車は発進した。
窓の外を流れる景色を楽しむ余裕はなくて涙で歪む。
その涙を谷に気づかれないように何度も拭った。
しばらくするとどこかへ着いたらしい。
停車しても窓にへばりついている澪へ谷はハンカチを差し出した。
「何をそんなに怖れているの?
澪は俺に惹かれてるはずだ。」
開口一番、何を言い出すのか。
谷は理解できないことを言い出した。
澪は呆れて返答する。
「自分で言います?」
「俺が言わなきゃ澪は認めないだろ?」
「惹かれてなんか……。」
どこからそんな自信が……。
呆れる澪に谷は驚くことを言ってのける。
「寝言で、谷さん好きって言ってた。」
「嘘!そんなわけ……。」
思いっきり振り返って、揺れる瞳で谷を見つめた。
目を細める谷が澪の頬へ手を伸ばす。
「やっとこっちを見た。
ボロボロじゃないか。」
ハンカチで拭いてくれる谷に抵抗して顔を背ける。
「泣かせないって言ったくせに。」
憎まれ口をたたいても谷は笑う。