夏は短し、恋せよ乙女
「梨々花ちゃん!昨日は大丈夫だったの?」
甘い匂いを振りまく幼馴染が教室へとやってきて心配そうにこっちを見ている。
「麗(うらら)、おはよ。昨日は心配かけたわね。」
もうすっかり元気よ!とウインクして見せた。
「昨日はものすごく顔色も悪かったから…梨々花ちゃんが死んじゃったらどうしようかと…」親友の春野うららはウルウルと今にも泣きそうになっている。
「ちょっと!勝手に梨々花のことを殺さないでよね!」
「ところで、昨日の男性は誰だったの?」
「男性?」
「ほらっ、ベンチで一緒にいた人だよ!私が来たらすぐに帰っていったけど…。」
もしかして…恋人さん?
「ねぇ…麗。この梨々花が恋人を作ると思う?あの夏目梨々花様だぞ?」
「思わない、かな。梨々花ちゃんは男性がすごく苦手だもんね。」
「麗にだけは言われたくない。あとひとつ言うけど。苦手じゃなくて、嫌いなのよ。」
「せっかく梨々花ちゃんかわいいのに。」
確かに可愛いです。
この世の中に虜にならない男女なんていないもの。
100人に聞けば、きっと95人は可愛いといって寄ってくるだろうし、
後の5人は負け惜しみで「大したことがない」なんていうでしょうけど、
梨々花の顔と交換してあげると言えば、確実にyesと答えるはずよ。
人生でなに不自由なく生活をしていた。
ただ一つ、男性という生き物がどうしても好きになることができなかった。
「昨日の人なんて顔も覚えていないわ。」
まぁ、梨々花の腕に触れただけ感謝をするべきよ。
梨々花の男嫌いは有名であり、全校生徒が知っていた。
そのため、誰も自ら声をかけてくる男性なんて近くにはおらず
誰の名前・顔も認識が全くないのであった。
「お礼は言いに行かなくていいの?」
「お礼?梨々花に声をかける無礼者に伝える礼なんてあるわけないじゃない!」
「もしかしたら運命の出会いかもよ?」
「それ以上言ったら、許さないわよ。」
最近妙に親友は恋愛へと繋げたがる。
理由は「恋愛漫画」の影響らしい。
人間関係が苦手な親友が漫画を見て、現実離れをしていることがバカバカしいと思っている。
「もっと現実を見ることね。麗はまず、人見知りをどうにかしなさいよ。」
「大丈夫!今ね、主人公が人見知りだけど、徐々に周りと仲良くなっていく話の漫画で勉強をしるの!」それで恋もして~恋人だってできちゃうんだから!
と笑顔で話している。
そんなだから春うららなんて周りに言われるんでしょ…。
麗は、既に自分の世界に入っており言葉なんて、耳に届いていない。