嫌われ者の小鳥遊さんは、好かれることに慣れてない
「…君達、余程暇なんだな。たった一人の女子生徒に大勢で食ってかかるとは。その無駄な行動力の高さを他で活かしたらどうだ」

「…宇津井先輩っ」

突然の宇津井先輩の登場に、此処に居る私以外の女子全員が息を呑んだ。後に騒めきが波紋のように広がっていく。




「あ、あの…」

おそらくこの状況の弁明を図ろうと口を開いた一人の女子に、凍てつくような視線を向ける宇津井先輩。そんな先輩の迫力に気圧され、誰一人として口を開く者は居なくなった。



「…誰だ。誰がこんな稚拙な行為を提案した。首謀者は誰だ」

「あ、あの…宇津井先輩」

「いや、誰でも良い。もう、二度とこんな事はするな。君達の顔は全員記憶したからな」

飄々と怖い事を言ってのける先輩に、私だけが呆れ顔を向けた。他の人間は宇津井先輩に決定的に拒絶された事にショックを受け、身動きが取れないようだった。



私から見ても少し可哀想に思えてくる彼女達に、宇津井先輩は更に追い討ちをかけるように「さっさと行け。これ以上此処に居られると胸糞が悪い」と冷酷過ぎる言葉を告げた。




ーー私と宇津井先輩以外の人間が居なくなった体育館裏は、先程とは打って変わってシン、としていた。


宇津井先輩は相変わらずその綺麗な顔に無機質な表情を浮かべ、じっと私を見つめている。




「…ありがとうございました」

「小鳥遊、」

「…それだけです。では」

早々に此処から立ち去ろうとしたが、宇津井先輩に腕を掴まれた事によってそれは叶わなくなる。

その風貌と同じ様に、布越しに伝わる先輩の掌の体温は冷たかった。



「待つんだ、小鳥遊」

「嫌です」

「君を一人にしたくない」

「一人が好きなんです、私」

「…嘘を吐くなっ」

私の腕を掴む先輩の掌に、一層力がこもる。まるで、逃がさないと、そう主張しているかの様だった。
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