嫌われ者の小鳥遊さんは、好かれることに慣れてない
急に黙り込んで俯く私に、先輩はゆっくりと語り掛けるように話し始める。





「…あの日、図書室で出逢ったのが初めてではないんだ。それ以前から、俺は君を知っている」

予想外の先輩の言葉に、思わず驚いて顔を上げた。宇津井先輩の、射抜くような、真剣な眼差しとぶつかる。




「君が良く利用する様になる以前から、第二図書室へは良く通っていた。入学式が済んで暫く経った頃、昼休みにあの場所へ行くと、少し開いた扉から先に君が座っているのが見えたんだ。


ーー君は、泣いていた。只静かに涙を流して、その後ポツリと言ったんだ。寂しい、と。たった一人の図書室で、君ただ、泣きながらそう呟いたんだ」





それは恐らく、倉科さんとの事があった日の昼休みだ。彼女に辛く当たっていた女子と行動を共にし始め、私に蔑んだ目を向ける倉科さんを目の当たりにした、あの日。



誰にも見られていないと思っていたけれど、まさか宇津井先輩に見られていたなんて。




「それまでは君のことを全く知らなかったが、その瞬間俺は、君を意識せずには居られなくなった。あの時たった一人泣きながら寂しいという君を、どうにかしてやりたいと思うようになった」

さっきまでは冷たいと感じていた宇津井先輩の掌が、今は不思議と熱を帯びて感じられる。


お互い視線を絡み合わせたまま、私はただ宇津井先輩の言葉にじっと耳を傾けていた。





「…小鳥遊、俺は君が好きなんだ。気丈に振る舞いながらも寂しいと涙を流す君が、愛おしくて堪らないんだ。俺は饒舌な方ではないから、君を傷付けてしまうこともあるかもしれない。でもそれでも、俺は誓う。君を一人にはしないと。俺の持つ全てで、君が好きだと証明する」




気付けば、私は涙を流していた。宇津井先輩から視線をそらすことなく、けれどとめどなく溢れ出すそれ。宇津井先輩は優しい表情を浮かべて、指でそっと拭うように私の目尻に触れた。



「小鳥遊、俺は君が好きだ」





ーー何処までも真っ直ぐなこの人を、私は堪らなく愛しいと感じた。
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