嫌われ者の小鳥遊さんは、好かれることに慣れてない
「古文を好む君の為に、とっておきの物を用意してきたんだ。取り扱っている題材は古今和歌集だが、他の書籍とはまた違った観点から通釈されている興味深い一冊だ。君もきっと気に入るだろう。


自信満々にそう言って図書室の端の席に座る私の前に本を置いた。極自然な流れで私の隣に腰掛ける宇津井先輩に、冷ややかな視線を送る私。




「本は大変興味深いですが、こう毎日持ってこられては到底読みきれません」

「ゆっくりと呼んでくれて構わない。返す期日は決めなくて良い」

宇津井先輩は、相変わらず表情の読めない端正な顔立ちでこちらを見ながらそう口にする。



私は隠す事なく、盛大に溜息を吐いた。





「…宇津井先輩、どうしてこんな事をするんですか」

「君の事が好きだからに決まっているだろう。もう何度もそう説明した筈だ」

至極当然のことのような顔で言う宇津井先輩。



…本当に、何度言っても私の気持ちは伝わらない。頭と顔は良くても、決定的な何かが欠落しているんだ、この人は。



図書室に入ってから、もう何度目になるか分からない溜息を吐く。宇津井先輩が図書室に来るようになってから初めのうちは遠慮していた私だったが、最近では隠す事なく本人の前でも悪態を吐くようになった。



「…先輩は、本当に奇特な人ですね。変人という表現では生温いほどに」

「何とでも言えば良い。俺は態度を変えるつもりはない。君が好きだ」

悪びれもせずそう宣う先輩に、腹立たしいを通り越してもはや諦めの感情を抱き始める私。
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