嫌われ者の小鳥遊さんは、好かれることに慣れてない
「君も良い加減に認めたらどうだ。俺とこうして過ごすことに喜びを感じ始めているということを」

「先輩は絶望的に空気が読めないんですね。先輩と居ることに喜びの感情が湧き上がったことは、唯の一度もありません」

「女性は少しくらい天邪鬼な方が俺は好みだが、君のそれは些か度が過ぎているのではないか。まぁ、そんな君も愛しいが」

「土に還れ」

「今何と?」

「いえ、何も言っていません」



宇津井先輩との会話はいつもこんな感じで、暖簾に腕押しとは正にこのこと。何度訴えても先輩は「君が好きだ」と宣うばかりだった。



先輩に呆れながらも本気で拒絶ができないのは、きっと私が心の何処かで孤独に耐えられなくなっていたからだろう。

そこに都合良く現れた宇津井先輩を、私は知らず知らずの内に利用しているのかもしれない。



そう考えると少しだけ先輩に罪悪感を感じるが、だからと言ってこの関係をハッキリと断つ決断は中々出来なかった。




ーー私と先輩の奇妙な関係も、始まって三週間が経った頃。






「…小鳥遊さん、ちょっと来てくれない?」

遂に私は、女子数人から呼び出しを受けた。

こうなる事は、薄々予測していた。私にとって宇津井先輩はただの分からず屋の変人という認識でしかないが、他の女子生徒にとっては違う。



あの完璧な見た目と優秀な成績、この学校では珍しい知性的でミステリアスな謎多き人物。噂では由緒正しい家柄の生まれらしく、あの冷徹な雰囲気さえも先輩を魅力的にみせるスパイスにしかなっていないようだった。


見た目も性格も決して近寄り易くはない宇津井先輩は、表立って女子達から騒がれるタイプでは無いが、だからと言って人気がない訳ではないようだった。


寧ろ、宇津井先輩に少しでも近付こうとする女子達の水面下での争いはあからさまに騒がれるよりも陰湿でタチが悪い。宇津井先輩と一言二言会話をしただけで学年問わず女子達から攻撃的な態度を取られ、それに耐えられず学校を辞めてしまった女子生徒も居るとか居ないとか。
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