うそつきす -嘘をついたらキスをされる呪い-
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翌日、佳乃の姿はあけぼの町にあった。
伊達に指定されたのはあけぼの町の駅から少し離れた公園である。公園というには小さく、そして寂れていて人気がない。駅よりもあけぼの山の方が近いだろう。
待ち合わせ時間の10時ちょうどに佳乃が公園に向かうと、既に伊達の姿があった。
「伊達くん!」
風邪と聞いていたわりに伊達は元気そうだった。佳乃の姿を見るなり、ベンチから立ち上がる。
「待たせちゃってごめんね。それで話って何かな?」
「……三笠さん」
ふらりと一歩、伊達が佳乃に迫る。
そして距離が近づき、その顔を間近で見た瞬間、佳乃の体が慄いた。
そこに王子様と称されるような余裕はなく、目つきは鋭く佳乃を睨みつける。ぴりぴりと肌を刺すような空気を纏って、伊達が腕を振り上げた。
「君に、失望したよ」
その言葉と共に、伊達の手が落ちる。
佳乃の体に触れたわけではない。どこにも痛みはないというのに、なぜか全身から力が抜けていく。まるで操り人形のひもを切られてしまったみたいに、佳乃は立っていられずに崩れ落ちる。
そして強烈な眠気。伊達が怖くて、起きていなければと思うのに、徐々に瞼が落ちて視界が暗くなっていく。
「……もう一度、変えないとだめだね」
変えるとは何のことなのか聞くこともできず、手を伸ばそうとしても力が入らない。公園の土に体を預けたまま、逃げ出すことも叫ぶこともできなかった。
死ぬのだろうか。浮島や菜乃花の忠告を聞くべきだったのだ。いまさら後悔しても遅く、いよいよ伊達の姿もわからなくなるほどぼんやりとしていく。
ぼんやりとした思考で、最後に浮かんだのは剣淵のことだった。今日は八雲と墓参りに出かけたはず。
呪いの件で怒らせてしまったとしてもあの優しい男のことだ、この状況を知れば墓参りどころではなくなってしまうかもしれない。だから剣淵には知られたくないと願い――そして佳乃は意識を手放した。