うそつきす -嘘をついたらキスをされる呪い-
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波乱の一年生合宿がはじまった。
一年生合宿とは五月末の土日に行われる行事である。協調性を高めるという名目で一年生たちは学校に泊まる。生徒たちは協力して夕飯を作ったり、親睦を兼ねたオリエンテーションに参加するのだ。
これをサポートするのが生徒会である。だが生徒会の人数では足りず、上級生の一部も行事協力生徒として参加していた。この中に、佳乃や浮島、剣淵も含まれていた。
合宿がはじまり、佳乃は共に協力を名乗りでた浮島、剣淵と共に行動をしていたのだが、始まってから夜まで走り回ってばかりだった。やれ調理実習室室で一年生の様子を見るだの、材料が足りないから取りにいくだの、一年生が喧嘩しただの、と校内を何度も往復するほど忙しく、伊達に接近する機会はなかなかない。
さらにメンバーも悪かった。浮島はやる気なしで手伝わず遊んでばかり、剣淵もやる気なさそうに呆けているばかりで、頼りになる者は誰もいない。佳乃だけが慌ただしく走り回っている状態だった。
ようやく落ち着いたのは、夜。オリエンテーションが行われている頃だった。
「つ、疲れた……足が棒みたい……」
どさっと扉にもたれかかって佳乃は廊下に座り込む。
「佳乃ちゃんおつかれー。忙しそうだねぇ?」
「浮島先輩も少しは手伝ってくださいよ……」
共に歩いてきた浮島と剣淵も立ち止まり、特に浮島は疲れた佳乃の様子をみてくすくすと笑っていた。
「憧れの伊達くんとお話する機会なくて残念だね」
からかうように言って、浮島が隣に座る。
剣淵はというと、二人のように廊下に座り込むのではなく、離れた位置で壁にもたれかかっていた。
やはり剣淵との距離を感じる。わざと佳乃を遠ざけているような印象を受けてしまうのだ。合宿の間ぐらいは言葉を交わすかと思っていたのだが、かれこれずっとしゃべっていない。話しかけても浮島と業務連絡的な会話をするばかりで、それ以外は不機嫌そうに眉を寄せている。
「あーあ。つまんない」
浮島の声に呼び戻され、慌てて佳乃は剣淵から視線を移した。
現在行われているのはオリエンテーションの前半、校内肝試しである。廊下の電気を落として薄暗い中、懐中電灯を持った一年生たちが探検するのだ。生徒会役員たちはおばけ役を担当し、協力生徒は誘導係となっている。
佳乃たちの担当箇所は、この教室だった。空き教室なのだが、体育祭用の道具を置いているらしい。薄暗い中肝試しルートから外れてしまった一年生が迷い込んでしまっては大変だということで、一年生が近づいたら道案内をすることになっている。
「オレもおばけ役がよかったなぁ。一年生ちゃんに『悪い子は食べちゃうぞ』なんて脅かすの楽しそうじゃん?」
「おばけって、人間を食べましたっけ?」
「あー……そういうところはピュアだよね、佳乃ちゃんって」
おばけとは肉食だろうか、と首を傾げている佳乃に浮島は苦笑した。
しかし、まったく暇である。肝試しがはじまっても一年生は一人も通りやしない。
「この後、生徒会の演劇があるんですよね……楽しみだなぁ」
「オレはいいや。あんまりおもしろくなさそうだし――剣淵は? 演劇みる?」
突っ立ったまま無言の剣淵に、浮島が話を振った。
「……どーでもいい」
「楽しくない男だねぇ。一度きりの人生なんだから、ハジけた方がいいよ。オレと一緒に一年生ちゃんのナンパでもいく?」
「こらこら、浮島先輩なに企んでいるんですか! だめですよ!」
浮島が茶化しても、剣淵の反応は薄い。じろりと睨みつけた後、そっけなくまた俯いてしまった。
気まずい空気が流れているのだが、それは浮島に伝わっていないのだろう。次にからかうターゲットを佳乃に切り替えたらしく、意地悪い笑みを浮かべて言った。
「青春恋愛といえば合宿とかお泊りイベントの急接近じゃない? ちょっと伊達くんの寝こみ襲ってきてよ」
「はあ!? なに言いだすんですか、いやですよ」
「もしくはどっかの教室に伊達くん呼び出して、カギとかかけちゃって、でこう制服を脱ぎながら迫ってみちゃったり――大丈夫あのガリ勉伊達くんならコロッと落ちるよ」
「迫りませんし、落ちません! 変なからかいやめてください」
恥ずかしさを隠すように早口で否定する佳乃をみて、浮島は腹を抱えて笑っている。その様子に苛立って、佳乃はそっぽを向いた。
「なーんか、面白いことないかなぁ」
佳乃も剣淵もしゃべらなくなってしまい、いよいよつまらなくなったのか浮島がふてくされて呟く。
すると、遠くから足音が聞こえた。
「……誰かきましたね」
「伊達くんじゃない? 佳乃ちゃん出番だよ」
浮島の言うことを信じているわけではないが、姿がぼんやりとしか見えていないこともあり、伊達かもしれないと淡い期待を抱いて、遠くからやってくる懐中電灯の明かりに目を向ける。
一歩一歩と近づいてくる足音に、固唾をのんで待っていると――