うそつきす -嘘をついたらキスをされる呪い-
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剣淵奏斗が自ら靴を探すと名乗り出たのには理由がある。それは罪悪感だ。
黒板やノート、靴といった嫌がらせがはじまったのは体育祭にある。
あの時、佳乃と伊達を二人三脚で組ませ、生徒たちの注目を浴びる形にしてしまった。佳乃の怪我は計算外だったが、きっかけは剣淵である。二人三脚をさせていなかったら、この嫌がらせはなかったのかもしれない。佳乃がめげることなく気丈にしていたことから罪悪感は薄れていたのだが、生徒玄関で困っている姿に、それは爆発した。
教室で佳乃を嘲笑していた女子生徒たちが犯人だろう。できることならば靴を見つけるだけでなく、犯人だろう生徒を見つけてこれ以降の嫌がらせも止めたいところだ。
一階から三階まで、すべてのごみ箱を覗き終えた時である。前方から歩いてくる女子生徒たちがいた。それは幸運にも、剣淵が探していた生徒である。
「おい、話がある」
通り過ぎようとしたところで引き止める。怒りを隠すことなく眉間に皺をよせた剣淵の姿に、女子生徒たちは臆しているようだった。
「三笠に嫌がらせしてんの、お前らだろ? いい加減ガキみたいなことすんのやめろ」
言ってもわからないなら殴る。そのつもりで反応を待っていると、女子生徒たちは慌てて首を横に振った。
「してない! 私たち何もしてない!」
「嘘つけ。落書きも靴を隠したのも、全部お前らだろ!?」
「ほ、ほんとだってば!」
女子生徒たちの様子を見るに、嘘ではなさそうだ。ひそひそと「三笠さんの靴ってどういうこと?」「隠されたの?」と話しているところから、靴を隠したのは彼女たちではないらしい。
「じゃあ犯人は誰なんだよ。お前らじゃねーんだろ?」
「うん。三笠さんの悪口を言ったりはしたけど、嫌がらせまではさすがに……」
犯人を見つけて嫌がらせそのものを止めたいところだが、難航の気配に苛立ってくる。こうなったら犯人よりも靴を探すべきか。そう考える剣淵に一人の女子生徒が言った。
「犯人はわからないけど……でも私たちのクラスじゃないと思う」
「あ? なんでわかるんだよ」
「黒板に落書きのあった日、移動教室で家庭科室にいたでしょ? 私が最初に教室へ戻ってきたんだけど、その時にはもう落書きされてたから」
剣淵の思考がしんと冷える。嫌な予感がしていたのだ。
他のクラスのやつが犯人となれば、佳乃には申し訳ないが伊達享を思い浮かべてしまう。性格の悪いあの男のことだ、佳乃を困らせたいからと彼がやってもおかしくはない。
それに伊達と佳乃のデートの日、伊達は『三笠さんは女子たちに妬まれるだろうね。どんな風にいじめられるのかな、すごく楽しみだよ』と言っていた。この嫌がらせを伊達は予想していたのだ。
その予想に追い打ちをかけるように、他の女子生徒が口を開く。
「さっきね、三笠さんの下駄箱前に伊達くんがいるのを見かけたんだけど……もしかしてこの話と関係ある?」
糸が繋がった。そうなれば剣淵の行き先はここではない。女子生徒たちに背を向け、剣淵は走り出した。