うそつきす -嘘をついたらキスをされる呪い-
27話 嘘の基準
佳乃、剣淵、浮島、菜乃花の四人があけぼの町に着いたのは10時頃だった。
目的地はあけぼの山だが、標高は高くなく地域住民からあけぼの山と呼ばれているだけなので、登山装備をする必要はなかった。念を入れて長袖や丈の長いズボンを着こんで集合したものの、露出度皆無の服装に浮島は不満げだった。
「華がない」
駅を出てあけぼの山を目指す道中も浮島は唇を尖らせている。もう何度目かになるかわからない浮島の発言を剣淵が遮った。
「山に行くってのに花なんて必要ないだろ」
「男じゃないねぇ剣淵くん。やっぱさ、夏に女の子と会うといえばお楽しみは露出度高めのお洋服じゃん? いっそ水着でもいいや。ねえねえこれから海に行こうよ、UFOは海にでるってさ」
そう言いながらも浮島の足はしっかりとあけぼの山を目指していて、軽い発言は冗談なのだろう。剣淵と浮島のやりとりを眺めていると菜乃花に肩を叩かれた。
「佳乃ちゃんが前にきた時は、駅から歩いて行ったの?」
「ううん。知り合いのおばあちゃんの家は駅から離れたところにあったから、迎えにきてもらったよ。駅まではお父さんと一緒に来て、そこからは車」
「そうよね……結構距離があるもの。30分ぐらい歩くのかしら」
はあ、と菜乃花が息をつく。外に突っ立っているだけでも汗が垂れてきそうな炎天下で、30分も歩き続けるのは大変である。既に菜乃花は疲れた顔をしていた。
しかし佳乃も人を気に掛ける余裕はない。長時間歩くことを想定し履きなれた靴を選んだものの、既に足が痛い。運動神経ゼロのタヌキは持久力までゼロなのかと自嘲したくなるほど。
「でも懐かしいなぁ」
駅からしばらく歩けば、徐々に田舎の風景がやってくる。あけぼの町は隣町だがくる機会はなく、あの夏からここには来ていなかった。あたりを見渡していると当時の記憶が蘇ってくる。
「そうそう。かくれんぼをすることになって畑の中に隠れて怒られたんだよね。確かあっちらへんかな……」
「よく覚えてるね」
古びた様子のあけぼの町外れはいまも変わらず、畑や看板、空き地を指さして思い出を語れば、口にするたびに心が弾んでいく。
「あの場所には家があってね、確か――」
「駄菓子屋だった」
佳乃の台詞を遮ったのは剣淵だった。
振り返れば剣淵は懐かしそうに目を細めて「あの家のじーさんが駄菓子屋をやってたんだよ」と話す。
佳乃の記憶も一致している。あの場所には駄菓子屋があった。いまは更地となり雑草が生い茂っているが周囲の様子からここで間違いないだろう。
同じものを共有している喜びに佳乃はきらきらと目を輝かせて頷いた。
「そう! よく知ってるね」
「あけぼの町に来た時に駄菓子屋に遊びにきたからな。ラムネを買って店先のベンチで飲んでたら、じーさんがオマケをくれるんだよ」
「コーラ味のガムでしょ? 間違えてたくさん仕入れちゃったから、わけてやるよーって」
「ああ、そうだった。ガムだ」
佳乃と剣淵の会話が盛り上がるのに対し、浮島と菜乃花はじいと黙って二人を見つめている。
特に菜乃花の眉間には深く皺が寄っていて、二人の様子を注意深く観察しているようだった。
「んで、あっちがニンジン畑だろ。お、まだ植えてんだな」
「この不気味な看板も変わってないんだね。看板の裏を曲がると、あけぼの山の近道になった気がする」
「ああ、そうだった。そういえばそんなのがあったな」
気づけば佳乃の隣を歩くのは剣淵になっていて、一歩後ろを歩く菜乃花と浮島を置き去りにして二人のあけぼの町トークが続く。
見上げれば剣淵は思い出を慈しむ優しいまなざしがあり、あけぼの町に触れて生き生きいとした印象を受けた。普段とは違う楽しそうな姿を見れたことが嬉しく、佳乃もつられて口元が緩んでしまう。
目的地はあけぼの山だが、標高は高くなく地域住民からあけぼの山と呼ばれているだけなので、登山装備をする必要はなかった。念を入れて長袖や丈の長いズボンを着こんで集合したものの、露出度皆無の服装に浮島は不満げだった。
「華がない」
駅を出てあけぼの山を目指す道中も浮島は唇を尖らせている。もう何度目かになるかわからない浮島の発言を剣淵が遮った。
「山に行くってのに花なんて必要ないだろ」
「男じゃないねぇ剣淵くん。やっぱさ、夏に女の子と会うといえばお楽しみは露出度高めのお洋服じゃん? いっそ水着でもいいや。ねえねえこれから海に行こうよ、UFOは海にでるってさ」
そう言いながらも浮島の足はしっかりとあけぼの山を目指していて、軽い発言は冗談なのだろう。剣淵と浮島のやりとりを眺めていると菜乃花に肩を叩かれた。
「佳乃ちゃんが前にきた時は、駅から歩いて行ったの?」
「ううん。知り合いのおばあちゃんの家は駅から離れたところにあったから、迎えにきてもらったよ。駅まではお父さんと一緒に来て、そこからは車」
「そうよね……結構距離があるもの。30分ぐらい歩くのかしら」
はあ、と菜乃花が息をつく。外に突っ立っているだけでも汗が垂れてきそうな炎天下で、30分も歩き続けるのは大変である。既に菜乃花は疲れた顔をしていた。
しかし佳乃も人を気に掛ける余裕はない。長時間歩くことを想定し履きなれた靴を選んだものの、既に足が痛い。運動神経ゼロのタヌキは持久力までゼロなのかと自嘲したくなるほど。
「でも懐かしいなぁ」
駅からしばらく歩けば、徐々に田舎の風景がやってくる。あけぼの町は隣町だがくる機会はなく、あの夏からここには来ていなかった。あたりを見渡していると当時の記憶が蘇ってくる。
「そうそう。かくれんぼをすることになって畑の中に隠れて怒られたんだよね。確かあっちらへんかな……」
「よく覚えてるね」
古びた様子のあけぼの町外れはいまも変わらず、畑や看板、空き地を指さして思い出を語れば、口にするたびに心が弾んでいく。
「あの場所には家があってね、確か――」
「駄菓子屋だった」
佳乃の台詞を遮ったのは剣淵だった。
振り返れば剣淵は懐かしそうに目を細めて「あの家のじーさんが駄菓子屋をやってたんだよ」と話す。
佳乃の記憶も一致している。あの場所には駄菓子屋があった。いまは更地となり雑草が生い茂っているが周囲の様子からここで間違いないだろう。
同じものを共有している喜びに佳乃はきらきらと目を輝かせて頷いた。
「そう! よく知ってるね」
「あけぼの町に来た時に駄菓子屋に遊びにきたからな。ラムネを買って店先のベンチで飲んでたら、じーさんがオマケをくれるんだよ」
「コーラ味のガムでしょ? 間違えてたくさん仕入れちゃったから、わけてやるよーって」
「ああ、そうだった。ガムだ」
佳乃と剣淵の会話が盛り上がるのに対し、浮島と菜乃花はじいと黙って二人を見つめている。
特に菜乃花の眉間には深く皺が寄っていて、二人の様子を注意深く観察しているようだった。
「んで、あっちがニンジン畑だろ。お、まだ植えてんだな」
「この不気味な看板も変わってないんだね。看板の裏を曲がると、あけぼの山の近道になった気がする」
「ああ、そうだった。そういえばそんなのがあったな」
気づけば佳乃の隣を歩くのは剣淵になっていて、一歩後ろを歩く菜乃花と浮島を置き去りにして二人のあけぼの町トークが続く。
見上げれば剣淵は思い出を慈しむ優しいまなざしがあり、あけぼの町に触れて生き生きいとした印象を受けた。普段とは違う楽しそうな姿を見れたことが嬉しく、佳乃もつられて口元が緩んでしまう。