うそつきす -嘘をついたらキスをされる呪い-
せっかく呪いがはじまったあけぼの山に来たというのに、何ら情報を得ていないことがもどかしい。
そういえば、佳乃が落ちた場所はどこだっただろうか。落ちた先で呪いがはじまったのだから、あの場所を見つければきっと――
「……でも、楽しいですね」
逡巡する佳乃を呼び戻したのは、弁当箱を片付けて立ち上がり町を見下ろしている菜乃花の一言だった。
「きっかけは特殊だったけれどみんな仲良くなって、夏休みを過ごしている。このきれいな景色を見ることができたのも、みんなで集まったからですね」
「そうだな……感謝してる」
剣淵が続けると、浮島が吹きだして笑った。
「最近の剣淵くんがデレすぎなんだけど。もしかしてオレとのフラグがたって、オレに気があるからデレてるってやつ?」
「んなわけねーだろ! 人がせっかく素直に言ったらこれかよ、勘弁してくれ」
「はいはい、わかってる。な、奏斗くん?」
そう言って、浮島は剣淵の肩を叩く。振り返った剣淵の顔は驚きに目が丸くなっていた。
「あれ、何その反応。せっかくカワイイ後輩と仲良くなったから、名前で呼んでみたんだけど」
「お、おう」
「うわ、そっけない。フラグ折れるわぁ」
「さっきからフラグフラグってなんのことだ……っつーか、肩! 揉むな!」
「えー。信頼の証だよ。カ・ナ・ト」
剣淵と浮島が仲よさそうにじゃれあっているのを見て、佳乃と菜乃花が微笑む。
出会いは最悪だった二人だが、剣淵も浮島も互いに信頼しあっていて、見ているこちらまで嬉しくなる。
「おい、三笠! 北郷! 浮島さんを止めろ!」
嫌がる台詞を残しながらも、柔らかな笑顔をしているのは、剣淵もそれなりに楽しんでいるからだろう。その姿に、呪いよりも剣淵の期待に応えてあげたいと気持ちが固まる。
頑張ろう、まだあけぼの山に来たばかりなのだから。その言葉を胸に抱いて、佳乃も立ち上がる。
その時、風が通り抜けていった。
「……え?」
ふわりと駆け抜けていった、バニラとムスクの甘い香り。それは自然溢れるあけぼの山に似合わない、人工的な華やかな香りで違和感が生じた。
佳乃はもちろん、剣淵も浮島も、菜乃花も香水はつけていない。しかし振り返ってみても周りに佳乃ら以外の人影はなかった。
どこかでこの香りを嗅いだことがある気がする。たぶんすごく好きな香りだったのだ。一瞬だというのに鼻に残って、忘れられないほど。
「三笠、何ぼけっとしてんだよ。早くこのバカ先輩を止めろ!」
「あ、ごめんごめん」
剣淵の声に我に返った佳乃は、香りはきっと気のせいだと言い聞かせて、頭から追い払う。それよりもUFO探しに集中しなければ。それが剣淵のためにできることなのだから。