I Still Love You
壮一は、自分と違って努力なしに、才能だけで簡単になんでもできる。どうせ自分だけがなにもできない普通の人間。そんな事を思っていた自分が恥ずかしかった。
音を立てないようにそっと近づいて、散乱したデスクと疲れた顔の壮一の寝顔をジッとみつめた。
(どうして?どうしてあの時……)
そう思わずにはいられない日々を過ごし、いつしか壮一のことを無理やり思い出さないようにしていたこの8年を思い出す。
その前の何十年はなんだったのか?壮一にとって日葵に会わなくなることは、取るに足りないことだったのだろうか?
そんな疑問が沸き上がっては、消えていく。
(私に対して、少しでも悪いって思ってる? 傷ついたのは私の勝手なの?)
そこまで思った時に、壮一が少し動いた気がして日葵は思考をストップする。
「日葵……」
微かに聞こえたその声に、日葵はビクリと肩を揺らした。
(なに?どうして?)
「ごめん……」
そしてその後すぐに聞こえたその言葉に、日葵の心臓はバクバクと音を立てる。
慌てて踵を返すと、日葵は壮一の部屋を後にした。
(なんの夢をみてるのよ……。聞こえ間違えただけよ)
早かった足取りを少しずつ、ゆっくりに戻し、「聞き間違えただけ」と自分に言い聞かせながら自分の机に戻った。