I Still Love You
「まだいたのか……」
壮一のその声に日葵はグッと唇を噛む。
「すみません」
「嫌、もうこんな時間だろ……」
呟くように言った壮一の声が、ため息とともに消える。
「待ってろ」
それだけが聞こえたと思うと、壮一はすぐにいなくなった。
(待ってろって言った?)
その言葉に日葵は自分の心臓が煩くて、落ち着かなくなる。
「長谷川!行くぞ」
「え?」
ジャケットを手に戻ってきた壮一を見て、日葵は驚いて立ち上がった。
「もう終われ!明日でいい」
プライベートの壮一ではなく、長谷川と呼ぶこと、壮一を纏う雰囲気が完全に仕事であることに、これ以上言い合いをすることもできず、日葵も素直に従うしかなかった。
無言でエレベーターに乗ると、迷うことなく壮一は地下駐車場のボタンを押した。
「車なんですか?」
無意識に言葉を発していて、日葵は慌てて口を押させた。
「ああ、終電にのれないことも多いからな」
普通に返ってきた言葉に、日葵も納得する。
不規則な就業を強いられる壮一は、電車では大変だろう。
(あれ?)
ふと、朝崎本に言われたことを思い出す。
「でも、今日部長に……」
そこまで言ったところで、音もなくエレベータのドアが開き壮一が颯爽と歩いて行く。
その後を、日葵も慌てて追う。