スイート ジャッジメント【番外編、別視点公開しました】
 
「先生、桜庭くん、は……?」

 電話を終えた狭山先生に、私は、尋ねた。

「瀬川さんをここに連れてきて、そのまますぐに人を探しに行かなきゃって行っちゃったのよ……。話を聞きたかったのに救急車呼んでる間に、あっという間にいなくなっちゃって……」

 困った様子の狭山先生の答えを、「……行っちゃったんだ」とどこか遠くの出来事のように、私は繰り返した。

 行っちゃった。

 行ってしまった。

 居なくなってしまった。

 それは、だんだんと重みを増して、意味を伴って私の中で繰り返される。

 昨日から、ずっと私の傍に居てくれた桜庭くんが……友香さんを追いかけて行ってしまった。

 ふぇ……と情けない声が漏れて、眼が熱を帯びて、視界が滲む。

 いやだ。

 涙がベッドのシーツに落ちた。

 桜庭くんが行っちゃったのが嫌だ。

 今、そばに居てくれないのが嫌だ。

 ポタリ、ポタリと涙の雫がシーツに落ちて染みを作る。

 桜庭くんは、もう戻ってこない。

 友香さんは、桜庭くんを解放しない。

 友香さんは……このまま桜庭くんをどこか遠くに連れて行ってしまう。

 私は昨日、ここで桜庭くんにぎゅうって抱きしめてもらったのに。

 もう居ない。

 きっともう、帰ってこない。

 頭の中で、あの動画の笑い声が……幾重にも重なり合って、響いていた。

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