スイート ジャッジメント【番外編、別視点公開しました】
満さんのお墓のあるお寺は、去年、湊が連れていってくれた海のすぐ近く。
あの日、湊が私に秘密を打ち明けてくれた砂浜は、今、私たちの眼下に広がっている青い海の畔。つまり、あの時も湊は、私を満さんの所に連れてきてくれていたのだ。湊は、あの話を私だけじゃなく、満さんにも聞かせていたんだと思う。
「とわ、こっち」
湊は並んだお墓のひとつで足を止めた。
言われなくてもここだと分かったのは、モダンでシンプルなデザインの墓石に真新しい綺麗なお花が3つ置かれていたから。左右に置かれたものは、白い百合の花をベースにしたもの。もう1つは真ん中に、真っ白な大きなバラの花束が置いてあった。誰が置いていったか、私にも一目で判った。
「もう、来てたんだね」
「まぁ。うちの親も仕事の前に来てるしね」
「仕事前にあの石段登るの辛いね」
「あー、いや。本堂の裏に駐車場あるよ? 電車で来たから階段だっただけで。流石に長すぎだから使う人ほとんど居ないんじゃない? 俺も初めて登ったし」
……えー。何それ。なんだか、疲れが倍増した気分。
「友香がわかってんのなんて、ちょっと考えたらわかったのにな」
自嘲気味な笑いを含んで湊は続けた。
「こんな花さ、俺に毎年おいてくわけないんだから」
「……湊」
どう考えたって兄貴にあげてる花じゃん、と湊の声に滲む痛々しさに、湊の手を握った。その手は、ついさっきまであの急な階段を登ってきたとは思えないほど冷たくて、握る手に力を込めた。