クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
「あなたもお腹が空いているの? 食べかけだけど……はい、お食べ」

パンの欠片を床に置くが、リデルはちらりと見ただけで食べようとしない。

(お腹が空いているんじゃないのかしら……)

「その子は地べたに置かれた食べ物は口にしない貴婦人なんだよ」

クスッと笑いながらマーヤが調理場へ戻ってくると、床に置かれたパンを陶器の器に入れた。すると、リデルはお座りをしてから上品にパンを口にしてぺろりと平らげた。

「ジーク様がきちんとしつけをされているからね、お行儀もいいもんだよ。たまにここへ来るんだ。きっと見回りのつもりなんだろう」

調理場に異常がないことがわかると、リデルはお礼を言うようにアンナの足に擦り寄って部屋を出て行った。

「アンナ。もう遅いから寄宿舎へ戻りな。お疲れさま」

「はい。また明日」

壁に掛けられた時計に目をやると、すでに二十時を回っていた。

(いけない、遅くなってしまったわ!)

国王を待たせるなんて無礼だ。とアンナは急いでペコリとマーヤに頭を下げると一目散で約束のクスの木まで走った。
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