クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
「私、いつも誰かの役に立ちたいって思ってるんですけど、実際は何もできてなくて不甲斐なさを感じているんです」

そう言って俯くアンナに、ジークはゆっくりと首を振って小さく微笑んだ。

「そんなことはないだろう。お前は物覚えがいいし、料理の評判も私の耳に届いている」

「え……」

「それに、人のために役に立つということが必ずしも医師になるということではない。残念ながら、叶えられない夢もあるものだ。その時は、また別の道を進めばいい。適材適所という言葉があるようにな」

そんなふうに言われたのは初めてだった。今このとき、今までやってきたことは間違いではなかったのだと、そう優しく背中を押された気がして、アンナは霞がかった心が晴れると、顔を綻ばせて笑顔になった。


次第に月が傾いて視界が薄暗くなる。ずいぶんと長い間ジークと時を過ごしたようだ。

(ああ、知りたいことがまだまだたくさんあるのに……このままでは朝を迎えてしまいそうだわ)

あれはこれはと立て続けに質問をするアンナだったが、嫌な顔ひとつしないジークに本当は優しい人なのだ。と思い始めたとき、ふと視界の端に一輪の花が目に入った。

(こんなところに……)

純白の五つの花弁をつけたそれは可憐な花だが、ごく少量の毒で屈強な大男でさえも即死に至らしめるリマキュラの花だった。
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