クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
「父上に心酔していた大臣は、いまだに私のやり方が気に入らない者もいる。それでも私は何かできることがないかと貧困層たちへ無償治療を始めた。なにはともあれ身体が資本だ。貧しくても病気や怪我をして治療が受けられなければ、彼らにとっては死活問題だからな。あのマーカスという老人にも時々、咳止めの薬を渡して私が診ていた。しかし……近い将来、彼はいずれ……」
お前にとって辛い現実が訪れるだろう。
そう示唆するように、ジークは言葉を濁した。
(マーカスさんに会ってはいけないって言った本当の理由は……私に悲しい思いをさせないため?)
アンナは皆まで語られずとも、彼なりの思いやりに気づいて切なくなった。
医師の道が閉ざされ、アンナはあれこれ悩んでそれでもなにか力になりたかった。“誰かのために”というその思いはジークと同じなのだ。
「あの老人のことが気がかりか?」
浮かない表情のアンナの顔をジークが覗き込む。正直、アンナはマーカスの行く末が心配でならなかった。
「……はい」
「お前がそう言うと思って、マーカスに他国での療養治療を勧めようかと考えている」
「え?」
「本当は彼のような者すべてに……と言いたいところだが」
“他国での療養治療”と聞いてアンナが顔を上げると、ジークが「安心しろ」と微笑んだ。
「ランドルシアよりも比較的人口が少なく、空気の澄んだマルレースという自然に満ち溢れた美しい国があるんだが、少しでも病状が回復するのであれば……私からマルレース王に交渉してみよう」
「じ、じゃあ、もしかしたらマーカスさん、元気になるかもしれないんですね!?」
再びマーカスと王都でサンドイッチを一緒に食べることができる日が来るかもしれない。そう思うと、アンナは目を輝かせた。
(ああ、マーカスさんが元気になったら……どんなにいいだろう)
「ありがとうございます。本当に嬉しい……!」
ジークの心遣いに涙が溢れそうになる。アンナはあまりの嬉しさに勢いよくジークに飛びついた。
「お、おい……」
突然のその行為に、ジークが少し困ったような視線を向ける。それに気づいてアンナはハッと我に返って身を離した。
「も、申し訳ありません! つい、嬉しくて……私ったらはしたない真似を」
ボブロでもウィルでもない、ましてや父親でもない殿方に飛びつくなんて、大人の女性のすることではない。恥ずかしさに俯いていると、ジークがニッと笑ってアンナの頭を撫でた。
「お前らしいな、いくら飛びつかれたって、私は構わないが?」
(もう、また私を子ども扱いして……って、私がいけないんだけど)
ジークの手の温かさを感じながら、穏やかになった気持ちでふと考える。
「マーランダ施療院の医師たちが貧困層たちへの無償の治療にあたることはできないのでしょうか? そうすれば、マーカスさんのような人たちをもっと救えるのに……」
この国には選りすぐりの医師たちがいる。それこそジークがひとりでそんなことをする必要があるのかとアンナは疑問に思った。が、それを聞いたジークはふるふると首を振り、皮肉交じりに口元を歪めた。
「何年も勉学に勤しんで医師になって給金の出ない仕事など誰も望まないだろう?」
「……そう、ですよね」
現実はやはり甘くはない。安易に馬鹿な質問をしてしまったと、アンナはしょぼんと項垂れた。
「まぁ、お前の言いたいこともわかる」
そんな様子にジークは小さくため息づいて、「顔をあげろ」と俯くアンナの顔に手を伸ばしてそっと上を向かせた。
「私がシュピーネとして無償で治療していることを知っている者は一部の者だけ、これは国王の内部情報でもある。他言無用だぞ? ただでさえ、今にも反旗を翻しそうな輩はそこら中にいるからな、お前が私に近しい者だとそいつらに知られれば……お前にも危険が及ぶかもしれない」
お前にとって辛い現実が訪れるだろう。
そう示唆するように、ジークは言葉を濁した。
(マーカスさんに会ってはいけないって言った本当の理由は……私に悲しい思いをさせないため?)
アンナは皆まで語られずとも、彼なりの思いやりに気づいて切なくなった。
医師の道が閉ざされ、アンナはあれこれ悩んでそれでもなにか力になりたかった。“誰かのために”というその思いはジークと同じなのだ。
「あの老人のことが気がかりか?」
浮かない表情のアンナの顔をジークが覗き込む。正直、アンナはマーカスの行く末が心配でならなかった。
「……はい」
「お前がそう言うと思って、マーカスに他国での療養治療を勧めようかと考えている」
「え?」
「本当は彼のような者すべてに……と言いたいところだが」
“他国での療養治療”と聞いてアンナが顔を上げると、ジークが「安心しろ」と微笑んだ。
「ランドルシアよりも比較的人口が少なく、空気の澄んだマルレースという自然に満ち溢れた美しい国があるんだが、少しでも病状が回復するのであれば……私からマルレース王に交渉してみよう」
「じ、じゃあ、もしかしたらマーカスさん、元気になるかもしれないんですね!?」
再びマーカスと王都でサンドイッチを一緒に食べることができる日が来るかもしれない。そう思うと、アンナは目を輝かせた。
(ああ、マーカスさんが元気になったら……どんなにいいだろう)
「ありがとうございます。本当に嬉しい……!」
ジークの心遣いに涙が溢れそうになる。アンナはあまりの嬉しさに勢いよくジークに飛びついた。
「お、おい……」
突然のその行為に、ジークが少し困ったような視線を向ける。それに気づいてアンナはハッと我に返って身を離した。
「も、申し訳ありません! つい、嬉しくて……私ったらはしたない真似を」
ボブロでもウィルでもない、ましてや父親でもない殿方に飛びつくなんて、大人の女性のすることではない。恥ずかしさに俯いていると、ジークがニッと笑ってアンナの頭を撫でた。
「お前らしいな、いくら飛びつかれたって、私は構わないが?」
(もう、また私を子ども扱いして……って、私がいけないんだけど)
ジークの手の温かさを感じながら、穏やかになった気持ちでふと考える。
「マーランダ施療院の医師たちが貧困層たちへの無償の治療にあたることはできないのでしょうか? そうすれば、マーカスさんのような人たちをもっと救えるのに……」
この国には選りすぐりの医師たちがいる。それこそジークがひとりでそんなことをする必要があるのかとアンナは疑問に思った。が、それを聞いたジークはふるふると首を振り、皮肉交じりに口元を歪めた。
「何年も勉学に勤しんで医師になって給金の出ない仕事など誰も望まないだろう?」
「……そう、ですよね」
現実はやはり甘くはない。安易に馬鹿な質問をしてしまったと、アンナはしょぼんと項垂れた。
「まぁ、お前の言いたいこともわかる」
そんな様子にジークは小さくため息づいて、「顔をあげろ」と俯くアンナの顔に手を伸ばしてそっと上を向かせた。
「私がシュピーネとして無償で治療していることを知っている者は一部の者だけ、これは国王の内部情報でもある。他言無用だぞ? ただでさえ、今にも反旗を翻しそうな輩はそこら中にいるからな、お前が私に近しい者だとそいつらに知られれば……お前にも危険が及ぶかもしれない」