クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
ランドルシア随一の名医であったコンラッド・バンクラールは、皆から「先生」と呼ばれて慕われていた。

ソフィアは王侯貴族が集う名門校を卒業し、サルベール講堂で医学を学んだ。そのときの講師がバンクール卿だったのだ。優しく、ときに厳しくいつも親身になって相談にものってくれた。そんな先生のことはもちろん尊敬していたが、その娘であるアンナの存在が、今のジークに重い十字架を背負わせているのだった。そうとも知らず、のうのうと笑っているアンナがどうしても疎ましく思えた。

「何も答えてはくれないのね、つまらないわ。もう下がりなさい」

ベアトリクスの冷たい口調に、ソフィアは顔をあげてハッとする。

「も、申し訳ありません」

どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。こうなるとベアトリクスはもうまともに口をきいてくれなくなる。これ以上、独房に長居は無用だ。そう思い、ソフィアは頭を垂れるとその場を後にした――。
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