クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
「あ、あなた……は」

目を見開いたままアンナは動けなかった。息をしていたかも定かではない。
深緑の外套を羽織り、目深に被った帽子。その人物がアンナの存在に気がつくと身体がピクリと動いた。

(どう、して……?)

アンナは金の髪で碧眼の凛々しい顔立ちをしたジークがいるのだとばかり思っていた。しかし、そこにいるのはトルシアン食堂に月に二回必ずアンナの料理を食べに来てくれていたあの“風来の貴公子”だった。

長い沈黙が二人を包みアンナが呆然としていると、彼がゆっくりとアンナに歩み寄ってきた。

「誰に聞いたか知らないが、いずれここへ来るのではないかと思っていた」

広いつばに手をかけると、被っていた帽子を取り払う。すると、形のいい眉を下げ、苦笑いを浮かべた風来の貴公子の素顔がついに露わになった。
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