クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
トルシアンに彼が来るたびにわくわくして、いったいどんな顔をしているのか、どんな声で言葉を紡ぐのか、何年もの間さまざまなことを想像した。月日巡ってようやくその素顔を目にすることができる日が来るとは。しかも、その彼が国王であるジークだったなんて信じられなかった。

「ジーク様……だったんですね、ずっとトルシアン食堂に来てくれていたのは……」

からからに乾いた口で言うと、ジークは短くため息をついた。そして驚きで口元を覆うアンナの手を見るとさっと顔色が変わった。

「お前、この火傷、どうした?」

「え? あ、これは……」

先ほどまでじくじくと痛んでいた火傷のことなどすっかり忘れていた。ジークに手首を掴まれ、険しい顔つきで火傷を見られるとドジをしてしまった自分が情けなく思えてきた。

「ここは人の目があるかもしれない。その火傷も手当をしよう。場所を変えるぞ、話はそれからだ」

アンナは言われるがまま、無言でコクンと頷いた――。
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