クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
※ ※ ※

製薬室で夜を明かし、昨夜の雨が嘘のように晴れ渡った翌日の夜。

「思ったより軽い火傷だったようだ。後、数日軟膏を塗り続けてくれ」

「ありがとうございます。昨日の今日で、こんなに早く治るなんて。ジーク様の軟膏はウィルさんが言っていたように良く効く万能薬ですね」

貧困層の患者が全員さばけたマーランダ施療院の地下室で、ふたりは向かい合わせに座ってそんな会話を交わしていた。

ジークはいつもの外套に帽子を被っていて、顔は見えないがアンナは目の前の人物がジーク・エル・ヴェルサス国王であることを知っている。

「あまりここでジークと呼ぶな、誰が聞いているかわからないからな」

「す、すみません……つい」

地下室にふたりきりだと思うと妙に緊張してしまう。

今夜はジークがシュピーネとして無償治療を行う日だった。アンナは遠慮したが、『仕事が終わったらマーランダ施療院の地下に来い』と半ば強引にジークに言われ、こっそりここへ来ていた。

「お前のその白い手に火傷の痕が残ったらと思うと気が気じゃなかった。これなら大丈夫そうだ」

ジークがアンナの手を取ると、そのまま火傷を負った箇所に唇を掠めた。

「あ、あの……」

「念のためのまじないだ。もう火傷をしないように、とな」

そう言って口の端をあげ、ジークは自分の手をアンナに重ねた。
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