クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
「ジーク様……ありがとうございます」

大切にされているのだとわかる。優しい声。遠い日の記憶の中で父の腕に抱かれた子どもの頃とも違う。ありのままの自分を受け入れてもらえる安心感に、アンナはつい顔が緩みだしそうになるのを誤魔化すため、深く息を吸い込んだ。

『この命に代えてでも守る』と誓いを立てられてからというもの、アンナはジークに対してなんだかやたら過保護になった気がすると感じていた。

――私の言った“愛でる”の意味を教えてやろう。

ふと、製薬室でジークに言われたあの言葉を思い出す。

息さえも飲み込まれるような口づけをされ、全身が麻痺した。今まで味わったことのない甘く、とろけそうな感覚にアンナは口づけの心地よさを知ってしまった。あのときだけジークと心が通い合わさったような気がして嬉しくてこそばゆかった。

(ずっとこの時間が続けばいいのに……)

ふたりだけの空間に酔いしれ、すぐにでも甘い雰囲気になりそうだった。しかし、そんな穏やかな空気も長くは続かなかった。
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