クールで一途な国王様は、純真無垢な侍女を秘蜜に愛でたおす
突然、ガタン!と音がして咄嗟に振り返ると……そこに大怪我を負ったの若い男が今にも倒れこみそうになりながら立っていた。

「ジーク様!」

またうっかり“ジーク様”と口を突いて出てしまったがその男はそんなことに反応する様子もなく、足を引きずりながらよろよろと近づいてきた。

「シュ、ピーネさん……助けて……くれ」

何があったか説明する余力もなさそうだ。ジークはさっと顔つきを変え、男を支えながら寝台に横たわらせた。

頭から血を流し、瞼が腫れあがって片目が開かない状態だった。胸からも出血がひどく、もしかしたら助からないかもしれないという有り様だった。

「すまねぇ、シュピーネさん……いきなり……」

「話しは後で聞くから今は喋るな」

アンナはそんな様子を放心状態で見つめていた。

(だ、だめ! こんなときに思い出したら……)

思い出したくない光景がアンナの意思と反して勢いよく浮上して取り巻いていく。

「い、いや……」

抱えた頭を振って忌まわしい記憶を振り払おうとするが、どんどんそれに侵食されてしまう。
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