短編集
story.6 探し物は案外すぐ傍にあったりします
高い空で、雀が鳴く。
――…嗚呼、夜が明けた。
電気のついていない、しんと静まり返る暗い部屋に朝日が射し込む。閑散としたリビングにある木目のテーブルに独りで座る自分には、その生まれたての光はあまりにも眩しくて。
眩しくて、あたたかくて、涙が堕ちる。
その涙を拾い上げてくれるやさしい手は、もう、ない。
「はは、」
つい零れた自嘲的な乾いた笑いが、早朝の冷たい静かな部屋に響く。自分独りがどれだけ寂しくて哀しくて打ちひしがれていたとしても、この世界はいつも通り廻り、綺麗で美しいのだ。
冷えた空気のなか、その空気に同調するように冷えてしまったマグカップも、今の惨めな自分を嘲笑っているかに見えた。
「もう、過去になっちゃったらしい。」
少し強めに出した声は、語尾が少し揺れた。
通い慣れたはずの部屋に行くことがなくなって数か月と、少し。
一人の友人として再びその領域に足を踏み入れた時、知らぬ間に増えた知らない些細な物や思い出を見た。
胸の奥に鈍い痛みを感じた。
「……結婚、するんだって。」
そう。
自分一人がいなくとも、周りは日々、変化するのだ。
そんな小さな世界に、言いようのない寂しさと一握りの憤りさえ過った。
「…………浮気相手と。」
そうやって誰かに語りかけるような口調になるのは、その事実を胸に閉じ込めておくだけでは辛すぎたから。
なんて。
聞いてくれる人なんて、誰もいや、しないのに。