短編集



「あ、違うや。 私が浮気相手、で、」


もう、嫌になる。


「そう言えば、好きだなんて、一回も言われなかっ、」


きれいさっぱりと忘れたいのに、それすらも許してくれない世界がひどく憎い。


「何で気付かなかったんだろう……っ」


不安定に揺れていた足元に気付きもしないで、笑顔を振りまいていた私はなんて滑稽だったろう。

馬鹿な女だなって、何度思われていたんだろう。


「疲れた、な。」


ひとしきり哀しんで、でも答えは何も見つからなくて。ふうっとため息を吐いた頃には、なんだか妙にスッキリした気分だった。


「あーあ。早くいい人見つからないかなあ」


まだ少し胸は痛むけれど、前を向こうと思った。


「例えば私のことを一番に想ってくる人、とか」


言いながら笑えた。
そんな人がいたならばそれは奇跡だと、本当に巡り合えるのかと。


「いるなら今すぐ連絡くださいなーっと。」



――鞄の中で着信を知らせる音が響いていることと、会社の上司専用の青色点灯ランプには気付かないまま。そんなことを呟いた。



**探し物は案外すぐ傍にあったりします
(早く気付けるといいですね?)
(っていうか早く気付いてあげてください。)



「あれ、部長?どうしたんですか?」

『お前、今何してるんだ』

「何って……家にいますけど」

『……ちょっと出てこい。』

「はぁ。 ……って、えぇ!な、何でですか!?」

『………。』

「今日休みですよね!? え、実は仕事だったんですか…!ごめんなさ、」

『……違う。今日一日俺に付き合え。』

「えぇ?意味がよくわからな、」

『見たい映画があるんだあと10分で支度しろいいか早くしろ』

”ガチャッ、プープー”「えええええ!?!?」


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