短編集
story.7 一目惚特急
――《ドアが閉まります。ご注意ください。》
そんなアナウンスを背中で聞きながら、俺は自由席の4両目へ一歩踏み出した。
「(空いてねぇ……。)」
が、空席がひとつも無い。
今は平日の夕方。帰宅ラッシュと被ったのだろう。スーツ姿のサラリーマンや、スポーツウェアの若い男女が入り乱れていた。
「(4両目はまず無理か。)」
空いている席をキョロキョロと探しながら歩を進めたが結局ひとつも見つからず、そのまま3両目へ続く自動ドアに辿り着いてしまった。
このまま空席が見つからなかったら――俺は約1時間強、ずっと立ちっぱなしになってしまう。それだけは何としてでも回避したい。
今日は大学時代に住んでいた都心まで足を運んでいた。
大学を卒業してから地元に戻って働いていた俺を、急な同窓会をするとかで平日なのに無遠慮に呼び出したアイツら。
朝から夕方まで散々遊びに連れられ、もうくたくただ。少しでも身体を休ませたい。
そんなことを思いながら足を踏み入れた3両目だったが、そこでも空席は見つからない。
「(……2両目も空いてなかったら、)」
諦めて立っていよう。仕方ない。疲労困憊。睡眠不足。もういいや、と早くも諦めモードで2両目へと進んだ。