短編集
story.11 田舎町×転校生
「転校生を紹介する。」
この田舎町から遠く遠く離れた都会から来たという、彼。
時期外れの季節に、しかもこんな田舎に引っ越してくるなんて。どんな事情があるのか知らないが、少し可哀想。
「この時期には珍しいが、まあ仲良くしてやれ」
担任がそう言うと、ぺこりと頭を下げただけ。随分と無口なひとらしい。
「席は窓際の――…アイツの隣な」
ゆうらりと、やる気のない指差しをされたのはアタシ。
彼は窓際の一番後ろという学生の特等席に座るようだ。担任の「座れ」の声にまた小さくこくりと頷いた彼は、こちらに向かって歩き出す。
すらっとした立ち姿、品のある顔立ち、動くと揺れる少し癖のある黒髪。前の学校のものだろうブレザーの制服姿さえ、都会臭を漂わせた。
「よろしくね。」
椅子を引いて座った彼に声を掛ける。声を掛けられるとは思わなかったのか、彼はぴくっと肩を揺らしてこちらをちろり、一瞥した。
その瞳は切れ長で多少冷たく感じる。何も言わないですぐに前を向いてしまったから余計にクールな印象を受けた。
彼の第一印象:クールな都会っ子
まあ都会の子なんてそんなものかもしれない。近所付き合いとか少なそうだし。
でもこの田舎町じゃ、知らないひとがまずいないからなぁ。お年寄りが人口の半分は占めている。みんな顔見知りで、すれ違う度に挨拶は基本だ。
「(こんな田舎じゃ過ごしづらいだろうなあ。)」
そんなことを思っていたとき。
「…………よろしく。」
ぼそり。
聞き取れるか聞き取れないか、そんな音量の綺麗なテノールが聞こえてきた。
彼は人見知りで照れ屋で不器用なのかもしれない。見える横顔がどことなくぎこちないから。
ぷっ、と吹き出し笑ったあたしに彼は「………何。」と不機嫌そうに照れた視線を寄越す。それにまた笑ったら蒼い空で1羽の鳶が、ピーヒョロロロロ。あたしに同調するよう、鳴いた。
**田舎町×転校生
(これからどんな日々が待っているのか、)
(嗚呼、本日は晴天なり。)