短編集
story.4 暑い、熱い、 アツイ 。
「暑い。」
ジリジリと灼熱の太陽が肌を焦がすこの季節は、アスファルトに囲まれたこの土地に住む私にとってまさに地獄だ。
「ねぇ、暑い」
「あついねー」
「離れてよ」
「えー」
いくらエアコンをつけている快適な室内とは言え、こうもピタリと背後から抱き締められるとやっぱり暑くて堪らない。
「暑いの。だから離れて。」
「やぁーだぁー」
「ガキか!」
「だって離れたくないもん」
「………。」
少し年下の彼はこういう離れたくないとか普通なら恥ずかしい言葉をサラリと言ってのける。さらに語尾に「もん」まで付けちゃうその素直さと可愛さは、女の身としては非常に悔しい。
「あ、っつい!」
「あー逃げるなよー」
でも、これはさすがに暑い。暑苦しい。
彼の腕から逃れてすくっと立ち、床からソファへと移動し座り直す。革のソファの冷たさが気持ちいい。ああ、なんて解放感……。
「そんなに暑いならアイス食べる?」
ふうっと息を吐き出したときに、ふいにそんな声が聞こえてきた。声の方へ振り向こうとする前に、彼は冷蔵庫から棒アイスを一本取り出してこちらに歩いてきた。
「ほら」
「あ、ありがと……」
丁寧に袋まで開けてくれて差し出されたアイスを受け取ろうとすると、ひょいっとまるでペットよろしくおあずけ状態にされる。なんで?
「はい、あーん」
「…………。」
こ う い う こ と か 。
「早くしないと溶けちゃうよ?」
「あ、あーん……」
仕方なしに口を開けアイスが突っ込まれるのを待っているが、目の前の彼はにこにこと笑うだけ。
「……くれないの」
「いやぁ、」
「なによ」
「口開けて上目で俺のこと見て、しかもアイス咥えようと待ってるこの構図、エロくて良いなと。」
「ばっ……」
**暑い、熱い、 アツイ 。
不服に思ったら、これだ!
こういう男なんだ、こいつは!
「馬っっっ鹿じゃないの!!」
「はいはい、お食べー」
「もがっ」
「はは、可愛いなあ」