短編集
そのまま颯爽と化粧室を立ち去る彼女の背中を、慌てて追い始める。
まるでペットのようだって?それ自覚してる。私だって分かっているんだから痛いとこ突かないで。
「今日は出るの?」
「あー…、うん。駄目もとで出した企画が通っちゃって」
「もっと喜びなさいよ」
「でも別に給料上がる訳じゃないしさー…」
「最低」
「さっ、最低って言うほうがサイテーなんですぅ!」
思わずジットリとした視線で長身、というかスラリとモデル体型の彼女を見上げる。
しかしながら既にオフィスの扉を開けた彼女は「失礼します」一礼すると、するりと痩躯で中に入り込んでしまった。
「ちょ、タンマタンマタンマ!閉めないでよ、鬼畜女!」
「あれ?アンタここだっけ」
「おい」
三年も同じ職場で働いている癖に、なんて白々しい反応を返すんだこいつは。
Sっ気も頂点を極めるとこうなるのか、なるほど。妙に納得してデスクに向かう背中をそのまま追った。