短編集
誰にも告げたことは無かった。
けれど私には、
前世の記憶がある。
それこそ悲しいもので、
ずっと消えてくれなくて、
どんなに抗っても駄目で、
苦しくて、苦しくて苦しくて。
ふとした瞬間に鼻腔を掠める
あの人の香りが、
どこまでも執拗に
脳の最奥までもを―――、
意志に反して膨れ上がる涙の膜は、とどまることを知らずに溢れ出した。
頬を濡らす多量のそれ。思わず右手で口許を覆うように俯くけれど、嗚咽は指の隙間から洩れ出してしまう。
地面が揺れるような感覚がした。
ずっとずっと、夢見てた。
いつか会えるんじゃないかって、
辿りつけるんじゃないかって。
一年、もう一年と伸ばしていく内にもう、こんな歳になってしまった。
視界を遮断していた私の身体を包むように、あの忘れられない香りが鼻腔を深く擽っていく。
「――――やっと、見付けた」
「っ、会いたかった…!ずっと、」
「俺も」
「あの日、貴方が殺されてからずっと…!」
「………俺も、」
「こういう日がくるって、ずっと、信じてた」
血に染められた赤が、瞼の裏にこびり付いて離れなかった。
寝ても覚めても、あのあと直ぐに貴方のあとを追っても。
目を覚ました場所は変わらずこの国だった。
セカイは優しくは無かった。
ずっとずっと、生まれ変わっても。
忘れられなくてずっと、もがいてたんだよ―――……
―END―