短編集
ぶつかった衝撃で長い薄茶色の髪がふわりと舞う。
瞬間的に鼻腔を掠めた柔らかな甘い香りに、ドキンと心臓が大きな音を立てた。
彼女が落とした書類を一緒に拾い集め、手渡しした時に僅かながらに手が触れる。
刹那、華奢な頬に迸った紅色は、柔らかく女性的な彼女の特徴を更に引き伸ばした気がした。
「親切に、ありがとうございました」
「と、とんでもないです…!」
ぺこりと頭(こうべ)を垂らして去って行く後ろ姿。すらりと伸びた手足。
咄嗟にその足元へと視線を走らせると、彼女が履く上履きの色は上級生の其れを指し示していて。
名前も、クラスも、何も分からないまま。
これが所謂"一目惚れ"だったんだと俺が知るのは、もう少し先の事になる。
* * *
職員室での出来事から、早くも一週間が経とうとしていた。
「陽斗-!はーるーとー!」
「なんだよひなたぁ…」