短編集
「じゃあさ」
ずいっ、と。
身を乗り出したひなたに小首を傾げて先を促すと、彼女は思いも寄らない事を口にしたのだ。
「――陽斗が女の子になっちゃえばいいんじゃない?」
「はぁ!!??」
ガタリ、と。
一際大声で叫び立ち上がったものだから、又もや教室中の視線を集めてしまった事は言うまでもない。
……と、まあ。ひなたのこんな突拍子も無い提案が切っ掛けで、俺は人生初の(願ってすらいなかったけれど)女装に挑戦する運びとなったのである。
* * *
ひなたがウィッグの髪の毛をくるくると巻いてくれている間これまでの回想に浸っていた俺は、ふと視線を持ち上げて時計の指す時刻を見つめる。
「そろそろかなぁ」
そんな俺に釣られるように自室の時計を認めたひなた。
可愛らしいキャラクラーが指す其れは、間もなく五時を告げようとしていた。