短編集
「ひなた。友達来てたの?」
ふふ、と。華開くような笑みで言葉を落とす彼女。
彼女――さくらさんが笑うと周りの雰囲気すべてが色付いてゆく様な、不思議な感覚に襲われる。
一方で、ひなたはと言うと。
「(やば、名前どうしよう…)」
俺のことをどう紹介するかで頭を悩ませていたらしく。
「は、ハルコちゃんだよ…!」
「!?」
苦し紛れに、笑いを堪える余り肩を震わせて放った一言。
その日から、さくらさんの前で俺は"ハルコ"という架空の人物を演じることになる。
* * *
何やかやで、ひなたの家にお邪魔して化粧をしてもらい、さくらさんと世間話をして帰る。
そんな日常が習慣付いてきたある日のこと、昼休み中にひなたがある提案を持ち掛けてきた。
「そろそろ勝負に出ても良い頃合いだと思うのよね」
シャープペンシルをたずさえ、俺をビシッと指してはそんな科白を口にする。