短編集
鈴を転がしたようなソプラノの声で、綺麗に笑う女の人のことを。
名を呼ばれた気がして、弾けたように辺りを見渡す。
近くに居たはずのひなたが教室の扉のほうにまで移動していた。
そして、彼女の陰に隠れるようにして此方の様子を窺うもう一つの影が。
ちょっと泣きそうになりながら、今散りかけていた花と同じ名前の彼女の元へと歩き出す。
同じ名前でも、彼女の美しさは決して散ったりなんかしないだろう。
「……陽斗くん、」
「さくらさん」
「ごめんなさい、私、騙してたのなんて…酷いこと…」
「、」
「ちょっと、男の人が苦手で、でも本当に…楽しかったから…」
腕を目許に当てて上を向く。ちょっと、じゃなくてやっぱり泣けてきた。
そんな俺らの様子を見て、さくらさんに似た穏やかな笑みを湛えてひなたはそっと席を外してくれる。
「ハルコちゃんが来なくなって、すごく寂しくなっちゃって」
あ、やばい。そう思った時にはもう、温かな温度のある涙が頬まで伝っていて。