短編集
さくらさんの声も震えていた。泣いているのかもしれない。
そう思ったら恥ずかしさなんて捨てて、涙に濡れた瞳のまま彼女を見下ろしていた。
やっぱり、彼女も泣いていた。
何度も目許を拭ったのだろう、濡れた掌をそっと優しく包み込む。
一瞬ビクッと肩を揺らしはしたけれど、そのまま体温を預けてくれた彼女に柔く微笑む。
「これからは、陽斗として側にいてもいい?」
「お願いします…!」
顔を真っ赤にしてそう口にしたさくらさん。
どうしようも無く抱き締めたい衝動に駆られたけれど、それはまだ我慢しておくことにした。
手を繋いで泣き腫らした目で微笑み合う俺たちの間を、暖かな春風がゆっくりと撫ぜていった――そんな麗らかな春のある日。
―END―