短編集
けれど、氷が溶けて段々と薄まっていく味がつくり出したものだったら、こんな私でも似合いだと。
そう思ってしまっても良いものだろうか───なんて。
「それはどういう意味で、」
見上げた先。
カウンターの隣席とは中々どうして近しいもので、搗ち合った視線がつくり出す世界に驚く。
見慣れたはずの男性の顔。
話し慣れたはずのお兄さんの顔。
私が幼少の頃より見慣れていたはずのその容貌が、時折音をたてるグラスの氷に溶かされていくみたいで。
──なんで二人で飲みなんてしているんだっけ?
──何言ってるのよ。普段からよく飲んでいたじゃない、二人きりで。
「……わかんない?」
──なんの切っ掛けでこの人と出会ったんだっけ?
──そんな疾うの昔のこと、
「口説いてんだよ、桜子のこと」
忘れてしまっても良いはずなのに、今でも鮮明に──。