短編集
「初めまして。よろしくな、桜子ちゃん」
逞しい腕に『代表』と書かれた腕章を付け、微笑みを向けてくれたおじさん。
それに対して、小さく笑みを返す背の低い私。
同じくらいの年の子がたくさん居て、誘ってくれた友だちも他の子と楽しそうに話している。
だから私は指定された場所に立ち尽くすばかりで、どこか他人事みたいにその光景を見ていた。
憧れていた場所にいるはずなのに。
キラキラ光を放っていたところに自分が居るはずなのに、それなのに。
──事の発端は、入場行進の笛が鳴らされる三分前だった。
「桜子ちゃん。ちょっと私たち、トイレ行ってくるね」
「エミちゃん」
私をこの祭に誘ってくれた、同じクラスのエミちゃん。それと、知らない女の子。
悪戯っ子のようにニカッと笑ってみせたエミちゃんたちは、その言葉に焦る私を気に留める様子もなく駆け出していく。