短編集
いっそ、トイレに立ってしまおうかとも考えたけれど。
それはそれで、当人の居ない空間でどんな話をされるのかが気掛かりで行動に移せない。
落ち着かない心境もそのままに、ぎこちない笑みを浮かべて曖昧に頷くばかり。
早く別の話題に変わらないかな、と、悶々としながらも時の流れを願っていた時だった。
「……それ、俺がもらっちゃってもいい?」
ユカリさんの真正面。
私から見れば斜め前に座っていたタツ兄さんがポツリ、おもむろに声を発したので驚く。
今まで言葉を発していたわけでもないタツ兄さんがいきなりそんなことを言ったのだから、ぽかんと口を開けて「は?」と言ったユカリさんに内心同意した。
そんなタツ兄さんの視線を辿れば、テーブルの上、至極私に近いところに『お通し』として出された枝豆の皿がある。
そのため、休ませていた両手を使ってその皿を持ち上げ、「どうぞ」と渡そうとしたけれど。