短編集
「桜子ちゃん。それ、天然?マジでやってる?」
ユカリさんの左隣。
今まで大人しく成り行きを見守っていたユカリさんの旦那さんが、心底憐れみを含ませた視線で私を見遣るものだから身を竦ませた。
いや、だって。タツ兄さん、枝豆見てたじゃないですか。
喉元まで出掛かっていたその言葉は、私のチキンな性格のせいで結局発せられることはなかったけれど。
「報われねえな、タツ。がんばれよ」
「え、なに?タツってもしかして、桜子ちゃ、」
例に洩れず叫ぶように口にされたユカリさんの言葉は、やや強引に宛がわれた旦那さんの掌に消えていく。
そう、彼女は口封じを施されたのだ。