拝啓、未来へ
「え、……えっ、と――」
「あと10秒。じゅーう、きゅーう、……」
戸惑いに揺れるわたしのことなんて知らんぷり。
言葉を被せるようにとうとうカウントまで始める始末。
そうすると断ることが出来ないことを知っている目の前のこの人は、とことん小悪魔だ。
「~~~~ッ」
「はーち、なーな、……」
――…ぽすん。
結局根負けして恭ちゃんの両足に座ったわたしを、今度は後ろからやんわりと抱きしめる。
様子を伺うことはできないけれど、きっとその顔は笑っているんだろう。
「はる」
「、」
右耳が弱いことを知っている恭ちゃん。
わざとらしく耳元で名前を呼びながら、ぎゅうって抱きしめるのは反則だ。
「はる?」
すっかり両足の間に収まったわたしに、恭ちゃんは喋り続ける。
その声はやわらかくあたたかく、吐息がちょっと悪戯に耳朶をくすぐる。