拝啓、未来へ
いつもと同じ様にそれを合図として、俺は履いていた靴を脱ぎ始める。
だらしなく緩む口元を見られたくなくて俯くのだけれど、そんなもの結局は無駄な抵抗だ。
だって君は、いつだって俺の心を真っさらにする。
「おかえりなさい」
頭上から聞こえてくる優しい声に、身体がぶるりと震える。
それと同時に、俺の弱い部分が急に温められた気がして、ほんの少しだけ涙腺が緩んだ。
――こんな俺を、君はまだ、大人だと言うのだろうか。
靴を脱ぎ終え玄関先に上がると顔を上げる。
そこで一瞬目が合うと、はるは俺の一番好きなふわふわした笑顔でもう一度「おかえりなさい」と言う。
「……ただいま」
「ごめんね。お風呂ちょうど上がったところで」
確かに玄関先まで充満するこの甘い匂いは、はるがさっきまでお風呂に入ったことを告げていた。
髪まだ濡れてるでしょ?と今度は照れたような可愛い顔をするから。
嗚呼、もう、どうしてくれるんだ。
心は、意図も簡単に鷲掴みにされてしまう。