拝啓、未来へ
「今の、どなたですか?」
俺が煩わしそうに見ていることに気がついているのか、いないのか。
にこにこと愛想の良さそうな笑顔でそう尋ねてくる。
「君には関係ないかなあ」
負けじと自分も人当たりのよい笑顔を浮かべた。
そして腕時計を見るフリをして、自分の腕から自然に彼女の手を離す。
「……もしかして彼女さんですか?」
「………(あー、もう。めんどいな)。」
心の中で溜息と舌打ちと悪態を一度に吐きながら「そうやけど」と笑みを深めて答える。
「そう、なんですか」
彼女がそう返したのを聞いたところで、もういいだろうと会社に向かって歩を進めた。
一瞥もくれない俺に彼女は慌てたように付いて来る。
気配を背後に感じたが、そんなことより時間が気になっていた。