拝啓、未来へ
飯食う時間、だいぶ減ってもうたなあ。
会社のロビーを通りながら、先程から鳴り続ける腹を落ち着かせようとそっと撫でる。
そんな俺の隣に、さっきまで後ろを歩いてきた彼女が追いついたらしい。そのまま肩を並べて歩き出した。
彼女を横目でちらりと確認すると、心の中でまた溜息を吐く。
「(………はあ。)」
彼女がいくら派遣社員だとしても、契約が続いている限り一応会社の人間である。
それ故にあからさまに嫌がったり邪険に扱うことは出来ず、心の中で大きな溜息を吐くしかない。
「あの、楢原さん」
「………。」
「彼女さんと付き合って長いんですか?」
「………。」
「きっかけは?」
「………なあ、」
「はい?」
ぴたりと歩みを止めて彼女を見る。
溜息混じりに出た俺の低い声に、どうしてそうニコニコと笑っていられるのか。
「それは君に答えなあかんことなんか」
「え?」
「人の領域に遠慮せんと土足で入るんは良くないで」
不愉快だという意味を込めた棘のある言葉と表情に、彼女の周りの空気が冷えたのを感じた。