裏通りランコントル
裏通り3番地
1.迷い猫
季節は冬。
外の空気は肌を刺すような冷たさで、枯葉をどこか遠くに運んでゆく。
今にも雪が降りそうなどんよりとした暗い曇り空の隙間に、赤とも黄色とも言えない綺麗な太陽の光が一筋だけ差し込んでいるのが見えた。
誰かがそれを、エンジェルロードと呼んでいたのを覚えている。あの光から小さく可愛らしい天使が幸せを運ぶため降りてくるのだそうだ。
天使の道なんだよ、と。
それを聞いたのはいつのことだったか。
随分前のことだったような気もするし、つい最近のことのような気もする。
その御伽噺(おとぎばなし)にも似た作り話を聞いたとき、わたしはどう思ったんだっけ。誰がその話を聞かせてくれたっけ。
――ああ、思い出せない。まるで記憶の空間に濃霧のうむがかかったようだ。
いや、もしかするとそんな相手はいなかったのかもしれない。
ただどこかで見聞きしたその作り話を、誰かに伝え聞いたと勝手に記憶をつくっているのかもしれない。
なんて愚かな。
「あの」
歩いていた。宛てもなく、ふらふらと。
ただ、家に居たくなかった。それだけだった。
「出掛ける」の一言を言わずに済むように、誰もいない時間帯を狙って外に出た。
別に家が嫌いなわけではない。
わたしの帰る場所はそこにしかないから。
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