裏通りランコントル
「雪が降りそうだ」
彼は、突然言った。
何も答えないわたしに嫌気が差したのだろうか。
見上げた先の彼は視線を窓の外へ移しており、大袈裟にぶるりと身体を震わせ腕を組んだ。
「お前、そんな格好で寒くないのか」
視線をわたしに寄越すと怪訝な顔をしてそんなことを呟く。
わたしの格好?別に普通だと思うけど。
でも確かに家を出たときより外の天気は悪いみたいだ。
自身の服を見て首を傾げていたそこで、もしかしたら彼は話題を変えたのかもしれないと気づいた。
「帰る頃には寒いだろうな。ちょっと待ってろ」
客間を出ていく彼を目で追いながら、わたしはそろそろお暇しようと考えた。
どれくらいお邪魔していたのかはわからないがきっと結構な時間が経っているだろう。
彼らにもやることはあるだろうし、わたしもそろそろ家に帰らなければ。と言っても特に用事があるわけではないのだが。
「これ使え」
戻ってきた着物姿の彼にぽいっと投げて寄越されたそれは黒いマフラーで、ぎゅっと手に握ると柔軟剤のような優しい花の香りがした。
彼が使っているものなのだろうか。
綺麗ではあるけれど新品ではなさそうな使用感に、わたしは本当に使っていいのだろうかと不安げに瞳を揺らす。