裏通りランコントル



「なんだ?ちゃんと洗濯してあるぞ」



心配しているのはそこじゃなくて。
そういう意味を込めて首を左右に振るがあまり意味は伝わらなかったらしい。

臭くないよな?と一度わたしの手からマフラーを奪いスンスンと匂いを嗅ぎながら眉に皺を寄せて、よくわからなかったのかまあいいやと言わんばかりにぐるぐるとわたしの首に巻いた。


半ば強制的だったが巻かれるととても暖かく、心まで温もりに包まれた気がした。

それは、この場所とこの人たちのようだと思いながら腰を上げた。



「帰るのか?」



頷いたわたしに「門まで送ろう」と背中を見せた彼の後を追う。そんなわたしを支えるかのようにオリが付いて来る。

玄関で靴を履いたわたしを確認すると、彼はわたしの手をとり門に向かって歩きだす。


ちらり。
盗み見る彼の背中は大きくて、靡く黒髪がとても綺麗だった。

握られている手はゴツゴツして骨ばっており、それでいて温かかった。時々風に乗ってくるこの香りは彼のものだろう。



「さあ。もう迷うなよ、迷い猫さん。」



耳元で囁かれたそれは、とても甘く響いた。

そうしてぽんっと背中を押されて振り返ると、大きな門に寄りかかって腕を組みこちらを見ている着物姿の彼とその横で穏やかな顔をしてゆるやかに手を振るオリがいた。


そんな2人を目に焼き付けてぺこりとお辞儀をし、わたしは門の外に一歩出たのだった。


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