裏通りランコントル
――…ジャリッ。
アスファルトの砂を踏んだ音が自分の足元から大きく聞こえた。
その音に意識を浮上させると、いつの間にか見慣れた景色の中にいた。
静かだった裏通り3番地とは一変して、この街はいつも通り騒がしかった。
でも、なんとなく帰れるだろうなとは思っていた。
『もう迷うなよ、迷い猫さん。』
雑踏の中、どこかで彼のあの声が聞こえた気がして後ろを振り向いたけどやっぱりそこはただの見慣れた景色だった。
まだお昼をちょっと過ぎた頃らしい。
街の中心にある時計がそれを教えてくれた。
あのね、不思議な体験をしたの。
そう言っても誰も信じてくれないだろう。
きっと夢でも見たんだろうって、いつまでもぼーっとしてないのって。
そう言われるに違いない。
だからこのことは、わたしだけの秘密にしておこう。
迷い猫だけの、とっておきの。